一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

2025年秋の大会」開催実施報告

1.実施概要

 「2025年秋の大会」は、2025910日(水)〜12日(金)の3日間、北九州国際会議場およびAIM(北九州市)において開催されました。2025年春の年会がオンライン開催であったことから、約1年ぶりの対面開催となり、3日間で1,515名の参加者を得ました。これは2024年秋の大会の参加者数(1,442名)を上回る規模であり、活発な議論と交流が展開されました。
 今回の大会では、理事会が教育委員会との共催で、理事会セッション「原子力人材育成における学会の果たすべき役割」が行われました(詳細は20251022日掲載の理事会だより[執筆担当者:村田勲理事]をご参照ください)。これにあわせて、教育委員会および国際活動委員会が人材育成に関する委員会企画セッションを実施しました。また、福島第一原子力発電所廃炉検討委員会、熱流動部会、福島特別プロジェクトは、福島第一原子力発電所の廃炉に関するセッションをそれぞれ企画しました。技術面では、原子力発電部会が次期軽水炉技術要件検討WGBWRブランチ)の活動成果として、現状の課題から技術的展望までの幅広い議論の概要を報告しました。さらに、核燃料部会、材料部会、加速器・ビーム科学部会、核データ部会、新型炉部会などが、最先端の研究や実務上の課題に関するセッションを企画し、Advanced Technology Fuels (ATFs) の展開状況、常陽原子炉の再稼働に向けた取り組み、加速器制御への機械学習応用、次世代革新炉開発に向けた核データ整備、次世代ナトリウム冷却高速炉の技術開発など、多岐にわたる最新知見が共有されました。倫理委員会では核セキュリティ文化醸成のための倫理的行動の意義、社会・環境部会の「高レベル放射性廃棄物処分をめぐる社会との対話」では、最終処分地選定における現状の課題と今後の協働のあり方が議論されました。また、バックエンド部会の企画セッション「放射性廃棄物処分におけるAI利用の展望」では、地下環境の解析や核種移行解析等におけるAIや機械学習の活用の現状と課題が取り上げられました。加えて、核融合分野におけるリスク評価や定義の多面的な理解も図られました。この他にも、部会・連絡会による多数の企画セッションが行われました。
 一般発表は、726件となり、2025年春の年会(オンライン開催、一般発表:292件)、2024年秋の大会(東北大学、一般発表:623件)を大きく上回りました。初日には交通機関の乱れによる発表の取り下げや発表者の交代などの影響はありましたが、各会場にて活発な議論が行われました。また、学生連絡会とダイバーシティ推進委員会のポスターセッションも活況を呈し、学生連絡会では57件の発表が行われ、最優秀賞1件、優秀賞4件、奨励賞6件が表彰されました。企業展示では、28の企業・機関が36のブースを開設し、会員への情報提供が活発に行われました。
 以上のように、多様なプログラムを通じ、参加者の皆様には充実した3日間をお過ごし頂けたものと思います。大会運営にご尽力頂きました現地委員会と関係各位、そしてご参加頂いた皆様に心よりお礼申し上げます。

2.秋の大会を終えて(参加者アンケートのご意見)

 2025年秋の大会では、参加者1,515名のうち約23%にあたる362名の方々からアンケートへのご回答を頂きました。ご多忙の中ご協力いただき、心より感謝申し上げます。
 多くの方から、対面開催により、参加者間の直接の議論や情報交換ができたことが貴重であったとのご意見を頂きました。また、学生のポスターセッションや若手の口頭発表など、今後の人材育成や研究交流の場として重要であったとの評価を頂きました。技術面・内容面では、生成AI、廃炉技術、新型炉などへの関心の高まりが顕著であり、異分野の動向や産官学連携の情報を得られた点を評価する声も寄せられました。
 一方で、ポスター発表と口頭発表の時間帯が重なることで参加機会が制約された点や、類似テーマの発表が同時刻に設定されていた点について改善を求める声がありました。会場案内や飲食情報、PC・携帯充電エリアなど、参加者の利便性向上に関するご要望も寄せられました。とくに、総受付の位置が分かりにくかった点、会場が分散していたことによる移動負担、初日の受付混雑、一部会場における座席数や会場の広さ不足、とくに学生ポスターセッション会場の狭さについては多くのご指摘を頂きました。
 これらのご意見から、対面開催の高い価値、とりわけ交流の重要性を改めて認識しました。今後は、プログラム編成の工夫や運営面の改善を進めるとともに、若手支援の強化、録画配信などのハイブリッド対応を含めた大会運営のさらなる向上を図りたいと思います。また、会場規模や会場の収容力、休憩や昼食スペースの確保などは、今後の開催場所選定において参加者増の可能性も考慮に入れて検討したいと考えています。加えて、案内表示の明示や導線の改善、受付の円滑化、昼食場所情報の提供などの運営面の改善に努めます。

 3.2026年春の年会(熊本)について

 2026年春の年会は、従来の「支部主体型」から、事務局が中心となる新たな運営方式(「事務局主体型」)への転換を試行します。これにより、各支部および支部会員の負担軽減が期待される一方、現地委員会が担ってきた地域密着型の企画立案が難しくなるという課題も生じます。そのため、本会では理事会の下に「2026年春の年会実行WG」を設置し、事務局と連携しながら現地企画の立案と準備を進めています。
 中心となる企画は、東日本大震災から15年の節目となる311日に実施する「追悼特別セッション」です。当日は地震発生時刻の1446分に合わせ、全参加者が熊本城ホール・メインホールに集い黙祷を捧げます。続いて、基調講演1では、甚大な被害を受けた宮城県女川町において、原子力発電所の安全確保と地域復興に尽力し、再稼働を成し遂げた東北電力女川原子力発電所の15年間の歩みについて、同社の阿部正信氏にご講演頂く予定です。また基調講演2では、福島第一原子力発電所廃炉検討委員会委員長として長年貢献された、前委員長の宮野廣先生から、同委員会の活動概要と15年間の検討の蓄積、廃炉作業の現状、残された課題、技術的・社会的観点からの今後の展望をお話し頂きます。これらを通じ、震災から得た教訓と、未来に向けた原子力のあり方を会員で共有する場となることを期待しています。
 現地企画の特別講演としては、「くまモンによるマーケティング戦略」を予定しています。誕生から15年以上愛され続けるくまモンの魅力発信の手法は、イメージ向上が課題となる原子力分野にとっても示唆に富むものと思います。現在、熊本県担当者へ登壇を依頼中です。また、熊本市内の小中学生向けの放射線教育体験講座や、熊本城ツアー、九州電力川内原子力発電所見学なども計画しています。
 事務局主体型では実施が難しい現地企画を、2026年春の年会実行WG・事務局・熊本市の連携により実現を目指す本年会は、今後の学会運営の方向性を探る試金石となると考えています。会員の皆様におかれましては、今後の年会・大会運営についてご理解を賜るとともに、積極的なご発表・ご参加、さらなるご意見・ご助力を賜りますよう、お願い申し上げます。

 小崎完(副会長、部会等運営委員会委員長、北海道大学)