会長挨拶

2019年度 第41代会長 岡嶋 成晃(おかじま・しげあき)

(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

 

 

原子力の「再構築期」を目指して

原子力学会の活動目的は、公衆の安全をすべてに優先させて、原子力および放射線の平和利用に関する学術および技術の進歩をはかり、その成果の活用と普及を進め、もって環境の保全と社会の発展に寄与することです。

本会は、2019年2月14日に創立60周年を迎えました。また、2019年は平成から令和へと新たな時代を迎えた年でもあります。そのような時の節目に会長に就任しましたことに、身の引き締まる思いです。

60周年を記念して開催したシンポジウムにおいて、「学会60年の歩み -震災に向き合って- 」と題する発表が、前会長からありました。 この発表では、これまでの学会活動をレビューし、向こう10年間の活動として「原子力の再構築期に向けて、国民の信頼を取り戻し、新たな未来を切り開くための展望」が紹介されました。併せて、その活動に関して、具体的に取り組むべき5つの課題が示されました。

これまでの社会に役立つ原子力と放射線に関する科学技術の追求に加えて、以下に示す「再構築期に向けて」に示された5つの課題について、会員の皆さんとともに協力して取り組んでいこうと思います。これらの取り組みを通じて、国連の持続可能な開発目標(SDG)に貢献し、将来の世代のためにより良い地球を残すことに貢献しようと思います。本会約6,500人の会員が、所属機関に関係なく、役割を共有しながら、ベクトルを一つの方向にして、進めることによって個々のタスクに取り組むことに率先して取り組むことを願います。私は、その取り組みを牽引していく役割を果たしていく所存です。

  1. 原子力の必要性の社会への提言と原子力の理解活動の促進
  2. 本会は科学技術の社会的応用のための工学の分野における学術団体です。すなわち、専門家の立場から、原子力が人類社会に役立つこと及び人類の持続可能な発展に大きな役割を果たすことを社会に提言することは重要なことです。そのために、我が国のエネルギー確保、国民経済の維持・発展、世界規模の地球環境問題などのさまざまな観点から、原子力の必要性を検討し、その検討結果を社会に積極的に提言していきます。
    原子力の理解活動については、一般の人々が原子力技術や利用への信頼と理解を深めるために、情報を受け取る人の立場に立って、「受け取る人が必要としている情報とは何か、情報は受け取る人が十分に理解できるような内容になっているか」を常に意識して、情報を発信するよう努めます。

  3. 事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所(1F)廃炉の促進と福島復興への支援
  4. 原子力利用の理解を取り戻すためには、1Fの廃炉促進と周辺地域の復興が必須です。この廃炉に向けて安全かつ円滑に進むように専門的な立場から技術的貢献を行うことと、周辺地域の復興に向けて支援することに、全力を挙げて協力していくことは、本会の重要な責務です。具体的には、これまで実施してきた福島特別プロジェクトと東京電力福島第一原子力発電所廃止委員会の活動を継続します。また、2016年に設立された福島復興・廃炉推進に貢献する学協会連絡会(ANFURD)を通じて、東京電力福島第一原子力発電所事故への対応に関連した活動と福島復興に貢献する活動に対して、学協会相互に情報の交換と協力を行って、効果的かつ効率的な実施・推進を促進していきます。

  5. 放射線の平和的利用に関する研究と放射線防護に関する研究の推進
  6. 原子力利用では、エネルギーの利用のみならず、放射線の利用も科学技術の社会的応用を図っています。この放射線の利用は、様々な分野で著しい進歩がみられます。例えば、福島での適用を目指した放射線検出器開発、量子ビームを用いたセンサー技術の高度化、新材料開発などのマテリアルサイエンス分野、核医学などの医療分野、農業や食品分野を始めとするバイオテクノロジー分野、加速器を用いた研究開発や産業応用などです。本会は、これらの放射線利用をさらに促進していきます。また、低線量放射線の生物への影響に関する研究など、放射線防護に関する研究の促進も図っていきます。

  7. 教育・人材育成の継続と技術継承
  8. 原子力技術の維持発展には、人材育成と技術継承が不可欠です。しかし、日本の大学や研究機関では教育研究のための施設が減少しつつあるとともに、それら施設の維持管理が困難な状況です。その結果、将来に対する不安がある状況です。また、原子力技術は、さまざまな分野の科学技術を総合したものであり、原子力の技術基盤を維持・発展させるためには、多様な分野の科学技術の各要素、すなわち基盤技術を強化することが非常に重要です。
    これらの状況を踏まえ、本会でのさまざまなテーマでの専門委員会活動を活性化し、若い研究者によるこの活動への積極的参加を図って、知識基盤の充実と技術継承を進めます。また、原子力施設の再稼働、継続的な安全性の向上、安全確実な廃炉/廃止措置への貢献に関わる活動にも積極的に取り組みます。
    技術継承では、実際の設計・モノ作りの経験が重要であるにもかかわらず、我が国において、発電炉や試験研究炉の新設は10年以上も途絶えており、非常に重要なOJTの機会が失われています。今後、実務経験の少ない技術者が、多数輩出されるという危機的状況を迎えそうです。
    この危機意識を会員相互で共有しつつ、人材育成と技術継承に努めていきます。また、学生教育や初等・中等教育におけるエネルギー学習に関わる支援などに具体的な取り組みを検討し、若い人達が国際的に活躍できるようにできるようにさまざまな支援を続けていきます。さらに、これまでに蓄積した福島原子力発電所事故に関連する知識を世界に広めるとともに、これまでに蓄積されたすべての知識と技術のアーカイブ化の検討を開始します。

  9. 会員数維持の活動
  10. ここ数年の経営改善と会員各位のご理解、ご協力、ご努力によって、一時の財政危機からは抜け出すことができました。しかし、最近では、毎年約100人の会員数の減少傾向があり、 昨年度は約200名の会員が減りました。さらに、少子高齢化、若者の理科離れ、団塊世代の定年退職などの状況に直面しています。これらの状況を反映して、若手の割合や女性の割合が少ないという課題もあります。このような課題を認識しながら、若手会員の活動強化、ダイバシティへの取り組み、会員サービスの向上を図っていきます。特に、HPの更新は急務であり、そこでは会員のメリットを明確に示せるようにしたいと思っています。


    2019年度副会長

    中島 健  京都大学
    藤澤義隆  中部電力
    山口 彰  東京大学