【意見公告】140. 沸騰水型原子炉の水化学管理指針:202X
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この指針は,(一社)日本原子力学会が,標準委員会 システム安全専門部会 水化学管理分科会 BWR水化学管理指針作業会,同分科会,同専門部会及び同委員会での審議を経て制定したものです。この指針では,発電用軽水型原子炉の安全性確保に係る冷却水などの水質管理(以下,“水化学管理”という。)が担っている役割を達成すべく管理方法を規定しています。その実践を通じ,プラントシステム全体の信頼性の維持,向上,及び被ばく低減による作業従事者の安全確保が期待されます。発電用沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)では,高温高圧環境下で構造材料及び燃料被覆管が冷却材及び減速材としての水と接触しています。一般に,金属材料と水の界面では腐食反応が起こりますが,とりわけBWRのような高温高圧環境下では,水質悪化に伴い構造材料及び燃料被覆管の健全性に影響を及ぼすことが懸念されます。特に水質悪化が長期間に亘ると,原子炉冷却材圧力バウンダリからの冷却材漏えい発生,又は燃料被覆管の破損による環境への放射性物質の放出に繋がる可能性があります。また,構造材料の腐食によって発生する腐食生成物が水を介して炉心で放射化され材料の表面に移行蓄積しますと,これが線源となって作業従事者の被ばく線量の上昇の原因となります。
したがって,原子力安全の確保と共に作業者安全の確保のためには,水化学管理の側面からは,
- 腐食損傷の抑制による構造材料・燃料被覆管の健全性維持
- 線源強度低減による作業従事者の被ばく低減
の継続的な達成が求められます。
しかし,腐食損傷の抑制及び被ばく線量低減は,複雑に絡み合っているため,水化学管理による運用変更は,一方へはメリットになるが,他方へはデメリットとなる側面も有していることから,電気事業者(以下,“事業者”という。)は,プラントシステムを包括的に捉え,多様な課題に対して,調和的に解決する必要があります。
このような状況の下,国内原子力発電所では,事業者が腐食と線源強度上昇に係る種々の試験結果,及び40年超に亘る運転経験から水化学管理に係る運用(管理項目,基準値,管理頻度,逸脱時の措置 等)を定めると共に,国内外の知見及び最新技術を適宜取込むことによって,水化学管理を実施してきました。しかし,2011年に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓から,事業者間に限らず,その枠を超えて異なる分野の専門家と利害関係を超えた公開の場で原子力安全の考え方に立脚した水化学管理のあり方を継続的に議論することが必要不可欠であり,同分科会において検討しております。発電用軽水型原子炉の通常運転時,起動時,停止時,及び保管時を対象とした水化学管理は,いずれも異常・事故の発生の未然防止,及びそれら兆候の早期検知を主たる目的としております。水化学管理によって,重要な多重障壁を構成する圧力バウンダリとなる構造材料,及び燃料被覆管の健全性を維持し,それらが損傷した際には,トラブル又は事故の起因事象(発端事象)となって,通常運転を逸脱し事故状態に至ることが想定されます。このため,原子力安全及び深層防護等の“Risk-Informed”の観点を踏まえ,下記の5点をもとに安全性向上の検討に継続的に取り組むことが重要です。
①BWRの水化学管理と運用が,規制規則及び保安規定等に適合すること
②水化学に起因する事象によって通常の管理状態を逸脱する可能性を低減すること
③この指針,「AESJ-SC-S009沸騰水型原子炉の水化学分析方法 - よう素131:202X」,「AESJ-SC-S010沸騰水型原子炉の水化学分析方法 - コバルト60イオン:202X」及び「AESJ-SC-S011沸騰水型原子炉の水化学分析方法 - 金属不純物:202X」の考え方が安全裕度を有し,アクションレベル等を超えても直ちにクリフエッジとはならないこと
④深層防護の考え方に基づき多層のアクションレベルが用意されていること
⑤この指針の現場での利用状況をモニタリングし,PDCAサイクルを回すこと
これらによって,構造材料,及び燃料被覆管の健全性の維持,及び向上に寄与できます。また,軽水炉の継続的な安全性向上による長期的な原子力利用に関わる基盤構築には,顕在化したトラブルに対するリアクティブな対策に留まらず,様々なバイアス及び思い込みを取り除きながら“Unknown-unknowns”の存在を前提として,新知見をプロアクティブに蓄積し,原子力安全に反映していくためのPDCAが必要と考えます。
同分科会では,それらの実現に向けて,原子力の安全基本原則をはじめ,原子力安全にとって重要となる考え方及びRisk-Informed等の種々の観点及び指標などを網羅的に調査し,水化学管理指針へのフィードバックについて検討してきました。
昨今の米国における規制の近代化の取り組みにおいては,原子力エネルギー革新と近代化法(NEIMA:Nuclear Energy Innovation and Modernization Act)が制定され,許認可近代化プログラムなどが進められており,そこではリスク上重要な事象を選定し,低頻度・高影響の事象についても考慮していくことが検討されています。そのような新しい考え方も参考に,既存の規範的な手続きに満足することなく,安全上重要な項目に取り組み,継続的な安全性向上に努めることが重要と考えます。
水化学管理は,軽水炉の長期運転に伴う高経年化対策及び軽水炉の設備利用率向上と関係が深いため,それらに関わる新たな評価軸の必要性及び導入についても議論を継続するとともに,引き続き,作業員の被ばく低減及び人と環境の放射線影響からの防護に関係する水化学管理のアップデートを継続していきます。継続中の検討については,まとまり次第随時今後の改定において指針に反映していく予定です。
今回の改定では,福島第一原子力発電所事故の教訓の反映とともに,新知見等を取り入れる継続的な検討などを解説に追加記載しました。
以上の観点における取り組み及び完了した検討を踏まえて,公平,公正,公開の原則に基づく日本原子力学会標準として水化学管理指針を改定することとしました。これによって,福島第一原子力発電所事故後の安全性向上に係る取組みを示すことも期待されます。
この指針は,事業者及びメーカの技術者にとって,より良い水化学管理を実践していく上で拠り所となるもので,解説に記載された管理値等の設定に係る技術根拠は,若手技術者への技術伝承のみならず,大学などの機関の研究者にとっても教材として幅広く機能することを期待しています。
指針を策定した後も,安全性向上に係る新知見及び水化学等に係る最新技術を発電所の運用に適切に反映するため,指針を改定していきます。このような活動を通じて,原子力発電所の継続的な安全性向上に寄与できるものと期待されます。
お問合せ先,ご意見提出先
一般社団法人 日本原子力学会 事務局 標準委員会担当
所在地:〒105-0004東京都港区新橋2-3-7 新橋第二中ビル3F
E-mail:sc[a]aesj.or.jp ←[a]を@に置き換えてください
Tel:03-3508-1263
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