一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

英文論文誌JNSTについての最近の取り組み

1. はじめに(編集委員会の体制)

 日本原子力学会(本学会)は, 公衆の安全を全てに優先させて, 原子力および放射線の平和利用に関する学術および技術の進歩を図り, その成果の活用と普及を進め, もって環境の保全と社会の発展に寄与することを目的とする, 日本で唯一の総合的な学会であることは, 会員の皆様は良くご承知ではないかと思う。この成果の活用と普及を進める上で, 本学会は, 学会誌『ATOMOΣ』(アトモス), 英文論文誌(Journal of Nuclear Science and Technology, 以下 JNST)と和文論文誌を定期的に発行している。

 アトモスは原子力関係者だけでなく, 一般の方々にも原子力への理解を深めてもらうための解説や情報を掲載している。一方, 論文誌は, 学術的な審査を経て掲載される謂わば「正式な学術的成果」の発表の場であり, 学術的成果の記録と蓄積の役割を担う。特に JNSTは, 海外の研究者にも日本の研究成果を知ってもらい, 国際的な学術コミュニティの一員として, 日本の原子力研究のプレゼンスを高める役割を担っている。

 アトモス, 論文誌, それぞれに編集長を筆頭とする編集幹事会が組織され, 編集委員会はこの2つの編集幹事会の活動を所掌している。編集委員会を構成する正副編集委員長や特別委員は理事から任命される。理事の任期は1期2年であり, 編集委員長は1~2年の短い期間で交代することが多く, 編集の実務は, アトモスは佐田編集長, 論文誌は矢野編集長をはじめとする各編集幹事会の方々の努力と熱意によって支えられている。JNSTは, 国際会議論文集(Progress in Nuclear Science and Technology)や研究テーマを絞った特集号の適宜発行も行っている。ここでは特に動きのあるJNSTの最近の取り組みについてご紹介する。

2. JNSTの状況

 世界的に学術論文誌の「オープンアクセス(OA)」への移行が益々加速している。国内においても, 2025年度以降に新たに行う公的資金の公募から, 学術論文及び根拠データの学術雑誌掲載後, 即時に機関リポジトリ等の情報基盤へ掲載することが義務付けられている[1]。学協会が主宰する国際的な原子力関連誌においても, 韓国原子力学会のNuclear Engineering and Technology(NET)はダイヤモンドOA(投稿料だけではなくAPC[2]も無料のOA), 米国原子力学会(ANS)の3論文誌は2022年からゴールドOA(投稿料無料で, APC有りのOA)として運営されている。JNSTは, 投稿料が有料で,OA 化したい著者からAPCを求めるハイブリッド型であり, 昨今の世界的な無料化の趨勢からすると競合他誌の後塵を拝している。そのためJNST への論文投稿数激減を避け, 論文の質を向上させる試みとして2023年2月よりExecutive Editor (EE)制度が導入された。EE制度は, 分野別責任者や担当編集委員と別れていた役割を, 一貫して担当することで, 審査基準の一貫性を高めつつかつ手順を効率化し, 論文の判定結果をより短い期間で著者に伝えることを狙ったものである。EE制度導入の経緯やご苦労は, アトモス2023年6月号掲載の理事会だより[3], が詳しいので, ご覧になっていらっしゃらない方は是非ご覧ください。

 EEの先生方の多大なご貢献もあり, 危惧した投稿数の大幅な減少は免れており, 2024年のJNST Vol.61 は総掲載論文数139(総ページ数は1628)であり29 論文がOA論文であった。また2023 年のJNSTのインパクトファクター(IF)[4]は,1.5 で前年よりわずかに向上し, ランクはQ2 [5]を維持している。IF の向上には査読の質の向上が重要であり, EE制度が順調に機能していると考えるが,投稿数としては依然減少傾向にある。また世界的にIFの値は増加傾向にある。現在はNUTHOS-14[6]や炉物理に関する特集号を進めているが, 掲載料の低減やOA論文の増加が強く望まれる状況は年々強くなっている。2024年度, JNSTは近年の論文誌全体の収支としては、編集委員会経費等を差し引いても500~600万円の黒字であり、黒字分は学会の収入の一部として納めている。投稿数が増えれば, 学会の収入も増えるが, その逆も成り立つ。出版社と最低限の掲載論文数を確保する必要もある。若手の方を中心に投稿数を少しでも増加させるための施策として, 段階的にでも投稿料を下げることを理事会とも調整しつつ進めている。出来るだけ早期に実施したい。

 本年JNSTは, 学術雑誌出版社であるTaylor&Francis 社(T&F社)と2025年から5年間の契約を更新した。昨年からの大きな変更点は, Editorial Office(EO)が, T&F社との連携強化のために新設されたことである。本会へ編集経費として支払われていた額は減少するが, JNSTの価値を高めるための経費がT&F社側に計上され, 総額としては増えた形になっている。今後EOの効果的な活用を進めることが重要と認識している。また契約更新に伴い, JNSTの編集体制の持続可能性を高めて, 編集長権限の強化も目指して, 編集長の公募を行っている。和文論文誌についても, 編集幹事会のご協力によって, アトモスに抄録を掲載する等, 可視化向上の試みも始めている。

 アトモス, JNST, 和文論文誌はすべて, 会員専用サイトからログインすることで電子版が無料で閲覧できる。この機会に, 論文誌についてもより広くご興味を持って頂き, ご投稿やご企画等のご検討を頂けましたら幸いです。

日野 正裕(編集委員長・京都大学)

参考文献及び語句説明
[1] 例えば, https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/08_openaccess/index.html
[2] APCはArticle Processing Chargeの略であり, OA化の論文掲載料費を示す。
[3] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/65/6/65_414/_pdf/-char/ja
[4] ある学術雑誌に掲載された論文が, 平均してどのくらい他の論文に引用されているかを示す指標。(その年の前2年間に掲載された論文が, その年に引用された総回数) ÷ (その年の前2年間に掲載された論文の総数)で定義される。その雑誌の影響力や重要度を測る目的で, 研究者や大学が論文の投稿先を選ぶ際の基準として使われる。
[5] IF等に基づいて, Q1~Q4に分けられる。Q1がその分野で最も評価が高い上位25%の雑誌であり, Q2は上位25%〜50%の雑誌に対応する。日本ではそこまで意識されていないが, 中国等の海外研究者にとって, Q1の雑誌であることは投稿する上で重要な要素となる。
[6]14th International Topical Meeting on Nuclear Reactor Thermal Hydraulics, Operation and Safety (https://www.nureth-21.org/)