一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

理事活動の一年を振り返って

 6月の総会を受け,この時期の理事会だよりでは,昨期の活動を振り返ります。昨期は,大井川会長が2024年6月の就任時に提唱した「つたえる・つながる・はぐくむ」の3つのキーワードの下に活動しました。学術的知見の創出と科学的に公平・公正な立場での発信,他学会をはじめとする他機関との連携強化等の活動の発展と次世代育成です。本稿では,これら3つのトピックスに関わる活動を振り返えり,2025年度の活動に向けての課題について私なりの考えを述べさせて頂きます。

1. 昨期の主な理事会活動

(1)「つたえる」に関わる情報発信
 日本原子力学会(以下,本会)の活動目的は「公衆の安全を最優先に,原子力及び放射線の平和利用に関する学術と技術の進歩を図り,その成果の活用と普及を進め,もって環境の保全と社会の発展に寄与する。」です。昨期は,理事会声明として「核兵器廃絶に向けて」をはじめとしする10件のプレスリリースを発出し,会長会見3件と記者との懇談会/取材対応3件を実施しました。その詳細についてはホームページをご覧いただければと思います。また,本会内の組織や本会外の関連機関を繋ぐハブとしての機能を果たすべく活動しました。本会内の対応としては,ホームページの視認性の向上や小委員会の活動状況の掲載場所の改良等を行い,関連機関への対応としては,電気事業連合会,日本電機工業会,原子力文化財団等との連絡会に参加し,原子力広報に関わる情報交換を行いました。その他,メール配信サービスやポジション・ステートメント活動の活性化, SNSの活用も継続しています。社会一般に向けへての発信については,本会のニュース,イベント等の発信を効果的に行うことを目的に,本会のX(旧Twitter)のガイドラインを整備しました。
 本会は,社会的役割として求められている「学術的知見の創出・集約と社会が活用できる形での情報発信,科学的事実,学術的見解等の提供を科学的に公平・公正の立場で行う」の実践を図るべく,適宜適切な情報発信に努めております。学会員の皆様におかれましても,引き続きご協力賜りたくお願いいたします。

(2)「つながる」に関わる年会・大会の運営,経営改善及び会員サービスの向上
 年会・大会は本会にとって非常に重要な活動です。2024年秋の大会は東北大学で対面開催となり,参加者は1,465名,演題数は623件を数え,2019年秋の大会以来途絶えていた懇親会も盛会裏に終わりました。これに対し,2025年春の年会はオンライン開催で,参加者は876名,演題数は272件と寂しい結果となりました。理事会では,オンライン開催のメリットや実績を考慮しつつ支部の負担軽減を目的に,春の年会はオンライン,秋の大会は対面を基本とする開催方式の導入を検討しておりました。しかしながら,2025年の春の年会後のアンケート調査結果から,対面開催による交流や議論の深化を図りたいとの参加者の意向が強く示されたことを受け,2026年の春の年会は,学会事務局主導のもと熊本市で対面開催を試みることとしました。また,年会・大会参加費について,12年間に亘り据え置きとしていましたが,会場使用料の値上げをはじめとする昨今の物価上昇を鑑み部会等運営委員会や理事会等にて検討を重ねた結果,他学会と同等程度に値上げさせて頂くことに致しました。本会の年会・大会の持続可能性を考慮しての苦渋の決断ですので、ご理解の程どうぞよろしくお願い致します。理事会においても,参加者にとって実り多き年会・大会となるよう今後も検討を継続していきます。学会員の皆様におかれましても,引き続き積極的に参加頂くとともに,闊達な議論と意見交換の場として活用頂きたくお願いいたします。
 「つながる」の強化手段のひとつとして,経営改善及び会員サービスの向上にも継続的に取り組みました。経営改善については,経営改善特別小委員会において,事務局会務の合理化や効率化の方策の検討を開始しました。事務局職員に対しヒアリングを行い,事務局の業務実態を調査するとともに,会員ニーズを踏まえた合理化,効率化の検討材料を整理しました。今後,具体的な改善に結び付けてまいります。なお,コロナ禍を契機に新たな業務慣行として定着したオンライン会議の励行については,会議参加の利便性や移動時間の節約といったオンライン形式のメリットを活かして旅費・会議費の削減を継続しています。ただし議論や意思疎通の深化といった対面形式のメリットも捨てがたいため,本会内各組織の判断を尊重して,会議の趣旨に応じた開催形態の選択を行って頂きました。
 会員サービスの向上については,物価上昇の中、会費値上げを出来る限り抑え,かつ会員の利便性向上を目指し,会員の皆様の意見をもとに,2025年度より学会誌(ATOMOΣ)の全会員への一斉配布に代えて学会誌電子版を閲覧いただくこととしました。また,会員専用サイトに掲載したPDF版記事の個別閲覧が容易となるよう利便性向上を図りました。引き続き,会員専用サイトのコンテンツの充実と閲覧性の向上方策,新たな会員向け情報提供サービスの検討,改善と導入を図っていきます。
 その他,「つながる」の強化策として,年会や大会の理事会セッションにおいて分野横断型の技術交流にも積極的に取り組みました。2024年秋の大会では地震・津波の専門家を招き,「地震・津波に対する原子力発電所の安全性 ~能登半島地震から学ぶ~」として我が国の現状を,2025年春の年会では「海外における原子力の情勢と我が国の方向」として大型軽水炉,SMR,核燃料サイクルに関する海外情勢を有識者から講演頂き,いずれも総合討論にて議論を深めました。また,日本学術会議総合工学委員会原子力安全に関する分科会主催の「原子力総合シンポジウム2024」の開催にも協力しました。折しも,第7次エネルギー基本計画が制定され,原子力安全のさらなる強化のもと原子力発電の最大限活用と放射線利用の拡充の計画が示されました。本会は,引き続き,国の動きとも連携しつつ学術的知見の創出・集約・発信を先導していく必要があると考えます。

(3)「はぐくむ」に関わる企画
 若手活動の強化として,次世代情報発信WGの活動や学生連絡会や若手連絡会の活動に対する支援を行いました。次世代情報発信WGでは,学会公認YouTubeチャンネル「あとみるチャンネル」の動画配信コンテンツの充実化を進めるとともに,本会から発信する動画のガイドラインを検討し,若手連絡会,学生連絡会の継続的なフォローを行いました。また,原子力教育に関する   調査・検討と支援,日米欧原子力学生国際交流事業や海外学生派遣等も継続しました。
 原子力アゴラ調査専門委員会「原子力の研究開発方針のあるべき姿の議論と政策提言の場,―原子力Agora―」は,傘下の「オープンで持続的な原子力研究開発インフラに関する検討・提言分科会」が取り纏めた最終報告書に関連したワークショップを開催し,将来の原子力開発・利用に関し,本会内に留まらないオープンな議論,成果の発信並びに政策提言活動を行いました。また,各部会と連絡会から推薦された若手/中堅の会員で構成される原子力の未来像検討WGでは,未来に向けたビジョンの一つの方向性として,「オープンな原子力研究基盤による持続的かつ超学際的なイノベーションの促進」を日本学術会議のグランドビジョンに提案し,採択されました。現在ビジョンを具体化するための議論を開始しています。

2. 2025年度の活動に向けて

 昨期も様々な改善策を検討し,順次,学会運営に反映してきました。検討し反映したことが上手く機能しているのか,より良くするために不足しているのは何か等を検証し,社会情勢の変化も考慮して改善を進めていく必要があると考えます。
 本会活動は,学会員によるボランティアに依存するところが大きく,リソースにも制約があることから,IoTやAI技術の発展等に応じた運営管理システムの合理化と効率化,委員会の改廃等のスクラップ&ビルトも必要と考えます。
 理事の任期は2年ないしは再任による4年が基本であり,学会運営に関わる課題の解決に期を跨ぐ場合も多くあり, 課題も多様化しています。本会が,学会員に有益と感じるような活動の場を提供し,今後も魅力ある学会であり続けるよう,理事会は改善を継続していく所存ですので、奇譚ないご意見、また積極的なご協力を賜れますよう、引き続きどうぞよろしくお願い致します。

河村 浩孝(総務理事・電力中央研究所)