一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

「ポジション・ステートメント活動の見直し」

1.ポジション・ステートメントとは
 ポジション・ステートメント(PS)は「日本原子力学会(以下、「本会」)の立場を表明するための科学的根拠等に基づいた公式声明」です。本会ホームページのトップページにある「原子力について」から閲覧できる「私たちの考え方」というタブがPSです。中学卒業程度の知識で読めることを前提に、A4用紙1枚程度で作成され、比較的長期的な本会としての意思を表示します。
 原子力科学技術を高めるには、他の分野以上に社会の理解を得ることが重要な分野です。本会は、その役割を担える組織の一つです。たとえば、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故後に、各発電所において様々な安全性向上対策がなされていることや、その後のグリーントランスフォーメーション(GX)の動きに対する原子力科学技術のポテンシャルについて、本学会が公式な声明を出すことは、大きな意味があると考えます。
 PSは、本会全体で関連分野の専門家たちがある程度合意しないと発信できないようになっており、対外的にとても重みがあります。本会の声明を発信するもう一つの手立てとしてプレスリリースがありますが、プレスリリースとして発信されるものは、年会・大会などのイベントの開催案内や学会活動の紹介など、内容がさまざまかつ数多くあります。そのため、発信した声明も、たくさんの情報の中で埋もれてしまいます。
2.PSの現状
 PSの本会における経緯については、山本によるATOMO記事(1)に詳細に記載されていますので、ここでは概略に留めます。PSの公開は 2009 年に始まり、広報情報委員会の下に設置されたポジション・ステートメント WG(以下 PSWG)を中心として延べ 22 件の PS が発信されてきました。しかしながら、本学会には、米国原子力学会のようにPS活動を支える専門家集団は存在せず、PSWG委員を中心としたボランティア組織に頼る形態であったこと等から、作成されたPSの多くは解説であり、本来の目的である宣言、提言、見解は少ない状況でした。さらに、近年は新たなPSの発信がなされない状況となっていました。こうした中、会員からも、PSに代表される学会大としてのメッセージを含む情報を社会にもっと発信していくべきとのご意見も多く寄せられています。このような状況を受け、本会として時代に応じたPSをもっと積極的に発信する方法を検討することとなりました。
3.PS活動の見直し
 このような背景を受け、2022 年度に理事会、広報情報委員会・PSWGにおいてPS の存在価値を再確認しつつ、仕組みの見直しも含めた抜本的な改革について議論し、2023年1月31日の理事会で以下の方針で再出発することが決議されました。
 まず、PSのクレジットを、PSを作成した部会等の各組織から理事会に変更し、理事会がPSの作成、公開、見直し(一部修正,取下げなど)など、PSに関するすべての活動に責任を持つこととしました。
 次に、PSは理事会、本会内の各組織(部会,常置委員会,専門委員会,連絡会等)が提案できますが、さらに会員が各組織を通じて提案することができることを明示するとともに、それぞれの提案者毎の審議過程を明確化しました(図1参照)。すなわち、今後のPSの作成は、提案元と広報情報委員会、PSWGと、必要に応じて提案元とは異なる各組織の連携によって行われ、最終的には会員に意見公募した上で、理事会が最終判断して発信していくことになります。


 図1.PS作成の手順の概略

 また、本来の目的を鑑み、区分を宣言、提言、見解に見直し、解説をなくしました。これまでの解説は、修正して別の区分に変更するか、担当する各組織の管理下に移すことになりました。
このような中、2021年度には本会の情報発信戦略、理事会主導で発信すべき情報コンテンツなどについて検討を行う情報発信特別小委員会も設置されました。当委員会では、PSの提案についての検討を行っており、現在、GXや1F事故対処の現状などが候補として挙げられています。
4.今後に向けて
 現在PSWGでは、過去に作成したPSについて、各組織にお願いして区分の見直しを実施していますが、新たなPSの発信についてはこれからです。新たなPSの提案を希望する理事会、各組織の皆様は、まずはタイトルと概要の案等を準備されている様式に書き込んでPSWGに提案してください。PSは、社会情勢を見極めた上で内容を詰め、学会員の合意を得た上でタイミングよく発信することが必要です。そのためには、タイムリーに本会としてのメッセージをプレスリリースし、それをPSに仕上げ、より多くの学会員の合意を得ることを目指し、理事会や各組織による企画セッションを実施すること等が考えられます。PSのたくさんの発信を通じて、原子力科学技術について社会の理解を得つつ高めていくという本会の役割が果たせればと思っており、会員の皆様のご理解、ご協力をお願いします。

参考文献
(1) 山本「広報情報委員会の活動 -ポジション・ステートメント改革についてー」 日本原子力学会誌 Vol.65-5 (2023) P.303.

稲田文夫(広報情報委員長、東京電力ホールディングス(株))