一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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理事会だより

「2023年秋の大会」理事会セッション報告

1.はじめに
 2022年度に理事会直下に設置された「情報発信特別小委員会」では、本会における情報発信戦略の検討等を進めており、その一環として本会における情報発信の現状と課題の整理のためのアンケート調査を2023年1~2月に実施した。2023年秋の大会の理事会セッションでは、このアンケート調査で浮かび上がった課題や良好事例を共有し、今後の方向性を議論するために、「学会の情報発信力を高めるには」と題して、6件の発表と発表者による総合討論を実施した。なお、情報発信は、その発信対象によって現状や課題が大きく異なるため、議論が発散しないよう、今回は社会一般に向けた発信にフォーカスすることとした。

2.アンケート結果の概要
 まず、上記小委員会の主査を務める筆者から、アンケート調査の趣旨、結果概要、課題、提案を報告した。当アンケートでは、15常置委員会、7支部、16部会、4連絡会から計105項目に及ぶ活動に関する回答を得た。社会一般に向けた情報発信はホームページ(HP)掲載とプレス発表が主な手段となっている。HPには膨大な情報が掲載されているものの、社会一般に積極的に伝えるための手段が乏しく、社会の幅広い受け手に届いていない状況である。プレス発表はマスコミを通じて社会一般に発信する有効なツールであるが、メディアに取り上げられる機会は少ない。アンケートの回答からは、各組織において情報発信活動に要する労力が大きく、個人のボランティア活動に依存している課題が浮き彫りになった。これらの課題を踏まえ、SNSの活用や2022年度から始まった会友制度を通じた情報拡散等を提案した。

3.委員会・部会等における取組の紹介
 次に、本会における情報発信の実務を司る広報情報委員会の委員長である稲田文夫氏(東電)より、「広報情報委員会が進める情報発信活動」と題して発表を頂いた。プレスリリース、会長会見、ポジションステートメント(PS)、HP、チーム110が主な取組である。PSは2018年以降発出されておらず、今般、規則類を改定し、学会の見解を示すものとして理事会の関与を強めることや解説的なものを廃止するといった改革を進めている。HPは、会員に対するアンケート調査に基づき、英語版も含めて改修を進めていることが報告された。
 続いて、社会一般に向けた情報発信で目立った活動を実施している2部会と1ワーキンググループ(WG)からその内容や課題について報告頂いた。まず、原子力安全部会の近藤寛子氏(マトリクスK)より「原子力安全部会が進める情報発信活動」と題して発表を頂いた。原子力安全部会では、情報発信を部会活動のミッションに明確に位置付けており、例えば検査制度WG(地方版)では、事業者、規制機関、立地自治体、アカデミアが一堂に会した討論会を公開で実施し、新検査制度への理解促進に貢献している。情報発信の際に大切なこととして、全体像を理解しやすいように伝えること、対話を通した情報発信や相手(参加者)の話に耳を傾けることを心がけること、わかりやすい基礎情報が入手しやすい状態にすること、主体的に無理せず続けられることを強調された。
 次に、社会・環境部会の部会長である土田昭司氏(関西大)より「社会・環境部会が進める情報発信活動」と題して発表を頂いた。1999年から約12年間にわたったチェインディスカッションでは、原子力と社会の関りや社会とのコミュニケーションのあり方について議論しており、24回に及ぶ議論の要旨は部会のHPで公開している。マスメディアとの交流会は毎年1回開催しており、今年度で14回目となる。記者からは、交流会は単に情報を得るだけでなく、専門家と面識を得る上で貴重な機会であるとの声も聞かれた。一方で、同部会では、HPだけでなく、情報交換のツールとしてSNSも使えるようにしているが、有効利用できていないとのことであった。2020年3月に部会が発出した声明については、少数の反対意見があったことなどの審議の経緯も掲載し、透明性の確保に留意している。
 企画委員会に設置された次世代情報発信WGの寿楽浩太氏(東京電機大)より「次世代情報発信WGの活動」と題した発表を頂いた。学会公認YouTubeチャンネルである「あとみるチャンネル」を運営している。学術性・独立性、社会貢献、誠実・公正、寛容・包摂、前向き・先取的、批判・内省、挑戦、創造・革新といった活動ポリシーを掲げ、原子力利用の政策的・技術的優位性を声高に訴えたり、「正しい知識」を持つよう殊更に促したりするような内容とはしないことも強調された。現在、歴代会長のインタビュー、研究所の施設紹介等を公開している。多忙な中堅世代がボランティアで行う活動としては作業負荷が大きいため広くメンバーを募集中であること、学会内を含めた認知度向上も課題であることが報告された。

4.学会の外側からの視点
 最後に、学会の外側、特にマスコミの視点で原子力学会の情報発信はどのように映り、どうあるべきか、滝順一氏(日経新聞)より「外から見た学会の情報発信の課題」と題して発表を頂いた。メディアが欲しい情報は、時宜を得た科学的・技術的知見、ことの経緯や歴史的視点、専門家へコンタクトするための情報、各種報告書の解説などである。HPの深い所にある情報はそのままでは誰も見ないので、SNSで知らせること、学会公認コメンテーターを設けること等の方策が望ましい。関心が高い一般人や学生に向けて、学びに役立つ用語集や、科学読み物・映像として面白い内容を発信することや、公開シンポジウム等のアーカイブ化も期待したいことが述べられた。

講演者全員による統合討論の様子

5.総合討論
 総合討論では、講演者全員によるパネル討論の形で議論を展開した。滝氏の発表に対して、重要な情報にどうやって行き着いてもらうか参考にしたい、コンテンツと適時性が重要であり部会単体だけでなく学会全体の力を使うことを考えていきたい、顔が見える情報発信ということが重要と感じた等の反応が示された。但し、学会員は大学や企業にも所属していて、どちらの立場で発信するか注意を要するとの意見もあった。まずはシンポジウムの開催案内や報告書等のWeb上の所在などの情報をSNSで一般向けに発信するのが良いとのことで一致した。
 プレスリリースについてはマスコミの立場からはあらゆる分野から膨大な数を受信しており、一般紙にはまず載らないと思った方がよく、むしろ発信し続けて、アーカイブ化しておくことが重要との指摘があった。社会・環境部会からの発信では議論の過程で意見が割れたこともオープンにしていることは評価でき、学会自体の信頼性を高めることにつながるとの意見があった。
 マンパワーの問題では、各職場や大学で学会活動を評価してもらえる仕組みがあると活動しやすくなり、就業時間中にも一定程度、活動できる環境を各所で構築することが必要であるとの意見が共感を得た。学会としてはそのような活動に対して感謝状等を出すなど、所属機関に評価される状態を作り出すと良いとの意見があった。また、情報発信自体を研究の1つであると捉えられると良いとの意見もあった。さらにシニア層で時間にゆとりが出ている方の活躍も期待したいとの意見があった。
 会場から、マンパワーの問題を解決する手段として理事のプロパー化の可能性について質問があったが、財政的に厳しい旨を回答した。また、オープンスクール活動は重要な発信ツールであるが、今回の議論で取り上げられていないとの指摘があり、地域密着型・双方向型の情報発信については別途議論したい旨を回答した。
 最後に新堀雄一会長より、当セッションのまとめとともに、学会誌の技術解説やコメントの掲載は、学会の情報発信の基本の一つであり、それらの概要を速やかに公開するなどマスコミの方を含め学会内外の多くの方に活用していただける仕組みも考えると良いのではないかとの提案があった。

6.おわりに
 今回の議論は、本会の情報発信力を高めるための様々な具体的方策について重要な示唆に富んでおり、今後の情報発信特別小委員会での議論に反映していきたい。

副会長・企画委員長(日本原子力研究開発機構) 大井川 宏之