一般社団法人 日本原子力学会 Atomic Energy Society of Japan

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【意見公告】71. 原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準:201X(案)(AESJ-SC-P00*:201X)

ご意見の受付

受付期間 : 2014年01月10日 〜 2014年03月09日ご意見の受付は終了しました。

ご意見と対応

1名の方からご意見をいただきました。
ご意見・回答(No.71)

概要

原子力発電所におけるシビアアクシデントマネジメントの整備及び維持向上に関する実施基準:201Xは, 日本原子力学会が標準委員会・システム安全専門部会の下にシビアアクシデントマネジメント分科会を設けて検討し,システム安全専門部会,標準委員会での審議を経て策定・発行したものです。既存の軽水型原子力発電所を対象に,シビアアクシデントマネジメント整備及び維持向上の考え方, 設備改造又は追加,手順書作成等に関する技術要件及びそれを満たす方法を規定している標準です。 平成23年3月11日に発生したマグニチュード9.0の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)で発生した設計基準を超える津波により, 福島第一原子力発電所の原子炉の冷却が安定的にできなくなり, 1号機から3号機においてシビアアクシデントが発生し, 1, 3, 4号機の原子炉建屋において水素爆発が誘発されたことから(以下では, 福島第一原子力発電所事故), 原子力発電に対する国民の信頼が大きく損なわれる結果となりました。東日本大震災以前の事象を踏まえて内的事象に対するアクシデントマネジメントは全原子力発電所で策定されており, 東日本大震災時にはその一部を使って安定状態に移行させる努力がなされましたが, 津波という外的事象による共通原因故障に対する備えは不十分であったと言わざるを得ません。これは, 政府の事故調査・検証委員会の報告書等多くの報告書において指摘されているところでもあります。一方, 福島第二原子力発電所も津波によって設計を超える状況になりましたが, アクシデントマネジメントが役に立ち, 安全に停止しています。 原子力安全の確保には, 設計基準を超える事象の発生頻度が低いとして軽視することなく, 考えられる全ての起因事象(複数故障や重畳事象を含む)を対象に, 深層防護における各防護レベルのリスク評価に基づき, 一定頻度で発生する事象については設計基準の要件に基づき厳格な品質管理で対処し, 発生頻度は小さいが影響が大きい事象については設計基準を超える事象に対する要件に基づいて適切な品質管理で対応する, すなわち安全性の重要度に応じた適切な対策を実施することにより, 整合性, 一貫性がある統合された安全対策を構築していくことが重要です。また, いくら考えても人間の考えの及ばない事象の発生は避けられないため, このような状況に対しても事象の拡大を防ぐための方策を予め考えておくことが必要です。 原子力学会の標準委員会では, 従来から, シビアアクシデントに関するリスク情報活用のための考え方, 原子力施設におけるPRA(確率論的リスク評価)の手法及びそれから得られるリスク情報を活用するための具体的方法などに関する標準の整備を行ってきています。現在までに, 内的事象のレベル1,2,3のPRA手法, 外的事象の地震, 津波, 内部溢水のPRA手法に関する学会標準を制定し, 現在, 火災のPRA手法, 地震従属の津波など外的事象の重畳のPRA手法を審議中です。このため, 外的事象及び内的事象を含めた全事象に起因するリスクを把握できる手法の整備が整いつつあります。 また, 原子力規制委員会及び関連する学協会においても, シビアアクシデント対策に関する議論が進んできています。本標準では, リスク評価に基づくハードウェア対策だけでなく, 要員の対応能力の向上を目的とした教育・訓練, 手順書の整備等のソフトウェアの対策を重視することで, 低頻度・高影響事象も含めたシビアアクシデントの種々のシナリオに科学的, 合理的に対応させ, 機能的かつ弾力的に安全性を担保することを目的としています。 以上の状況を踏まえて, 原子力発電所を取り巻く外的事象及び内的事象を含めた全事象に起因するリスクを適切に評価, 把握したうえで, シビアアクシデントに関するリスクを合理的に達成可能な限り低減するため, シビアアクシデントに至る可能性をできるだけ小さくし, また, シビアアクシデントに至った場合でもその影響を緩和するための措置としてシビアアクシデントマネジメント整備及び維持向上の考え方(PRAの不確実さの取扱いを含む), 設備改造又は追加, 手順書作成等に関する技術要件及びそれを満たす方法を纏めた学会標準を早急に制定することとしたものです。 なお, 原子力規制委員会においても規制基準が定められましたが, 本標準はその考え方を包絡しているものと考えられ, 既設プラント毎の特徴を評価することでより安全な運転に資することが重要との考え方を提示するものであります。 アクシデントマネジメント整備に関しての重要な考え方は, 深層防護思想に基づき, 従来の設計基準事故に基づく設計対応とは別の独立的効果を持つマネジメント能力の維持向上によって防御することです。設計を超える事態に陥ったとき, 更には, あらかじめアクシデントマネジメントで考慮していた状況を超える事態に陥った場合に, 事故の影響を緩和し, 放射性物質の放出を抑制するためのマネジメントを実施できる能力を保持していることが重要になります。アクシデントマネジメントのためのハードウェアの整備は, マネジメント能力の維持向上のための対策の一部であり, そこばかりに集中することでは事故を防ぐことが出来ないことを肝に銘ずることが必要です。シビアアクシデントに至るような状況においては, 自動的に起動するシステムはほとんどありません。現場での判断, 応用力によって適切な対応を人が実施することになります。もちろん, 従来のアクシデントマネジメントと同様なアプローチも重要ですが, それだけでは明らかに不十分です。本標準では, マネジメント能力の維持向上を図ることを主目的に, そのための手段としてのPRA活用, ハードウェア整備の他, 常に能力を持った人材が発電所に常駐していることや, 教育を含めた必要な能力の継続的な確認, 低頻度・高影響事象も含めたシビアアクシデントの種々のシナリオに対する訓練の充実など, ハードウェア, ソフトウェアの両面からの対策を要求しています。(解説1 制定の趣旨 解説2 深層防護の考え方とSAM実施基準の適用範囲について 参照) 但し, 既設プラントにおいては, 新規の系統・設備の追設等で得られる低減効果のみならず, プラント全体のリスクを増大させる可能性も併せて考慮しておく必要があります。このため, 最適なアクシデントマネジメントは発電所毎に異なります。また, ハードウェアの整備は, 総合的なリスク低減の視点からマネジメント能力の維持向上をサポートするものですので, やはり発電所ごとに異なることに留意しておく必要があります。